オムロン ポケット電卓

 オムロンは昭和8年に立石一真(当時33歳)によって創業された。当時立石電機製作所といい、最初はレントゲン写真撮影用のタイマーの生産販売を行っていた。
 同社は1967年6月に電卓の試作を開始し、同年9月、OMRAC777の試作第一号機をを完成した。その後社内で卓上電子計算機分野に進出するかについて検討した。同市場は非常に競争の激しい市場であるものの、予想以上のテンポで急拡大していることから1967年12月に電卓の商品開発が極秘事項として決定された。
 1969年3月1日、オムロンは世界最小の卓上計算機 CALCULET-1200を発表した。同機の外形寸法は横 182ミリ×縦 257 ミリ×高さ 66 ミリの週刊誌大、市販の電卓と比較して体積で3分の1、重量で2分の1(約2キロ)、性能は最高級機に匹敵し、価格16万5000円であった。
 1970年1月には OMRON 1200 を発表した。同機は12桁で価格が11万8000円。当時の12桁電卓の価格15万円から18万円と比べ大幅な価格低下を実現した。
 1971年5月にはOMRON 800を5万円を下回る4万9800円という当時の他社価格の半値に近い超廉価で発売した。この電卓には1970年9月に立石電機が初めて海外に設立したOmron Research and Development Inc.(OMRON R&D ・ ORD : 米国カリフォルニア州マウンテンビュー)が開発したLSIが使われている。OMRON 800の発売は、電卓業界に強烈な影響を及ぼし、技術革新と大量生産のメリットの加重による、本格的な価格競争時代に突入する。
 オムロンのポケットタイプの電卓は、プラスチックの特性を活かし、とてもカラフルで使いやすいものが多い。また国内や海外の多くの企業へもOEMで電卓を供給しており、当時最も多くのポケット電卓を生産した企業の一つである。

<カタログ>

80N

初期の8桁電卓。
単3電池4本使用。

81M

Omron81にメモリー機能が付いたもので、デザインも似ているが、キーの形、配列は異なっている。キーのデザインはコモドールのそれと非常に良く似ている。また内部の基盤には"MIIDA 828"の文字が見れる。
OMRON 81
Commodore (左)
との比較




Photo courtesy Mr.Nishi

60

1973年に発売された初期の6桁電卓。
カシオは1972年8月に表示を6桁にすることで 12,800円という驚異的低価格の大衆電卓「カシオミニ」を発売し電卓市場を席巻するが、このOMRON 60はカシオミニに対抗するため、その翌年にOMRON社から発売された6桁電卓である。価格もカシオミニと同じ12,800円だった。
OMRON社は当時数多くの電卓を製造し、世界中に輸出しており、OMRON 60 もデザインを変え、シチズンやMiida、 Adler ブランドで大量に販売された。
100(W)×158(D)×42(H)mm。360g。








Citizen six
Adler 60





60N

初期の6桁電卓。単3電池4本使用。
60の薄型タイプ。
本体の内部に「修理用チケット」が添付されており、保証期間は昭和50年11月末日になっいることから1973年若しくは1974年に発売されたと考えられる。


80

1973年頃発売された充電式8桁電卓。
15〜16時間充電し2時間使用することができた。
100(W)×150(D)×25(H)mm。

丸紅飯田にOEM供給され、Miida 8 という名前で主として米国で販売された。


Miida 8

82

1974年に発売された8桁電卓。
%キーが付いて13,800円だった。
98(W)×155(D)×24(H)mm。250g。



8P (8PE)

バイヤリースのロゴのついたオレンジ色の電卓。
%キーにルートキーが付いている。

8 (860X)

8Pと同じキー配列。

8M (860M)

1976年に発売された。
%キー、ルートキーにメモリー機能がついている。

8M (861M)

%キー、ルートキーにメモリー機能がついている。


            Photo courtesy Mr.Nishi

8SR

演算機能をフル装備したコンパクトな関数電卓。
19種類の関数機能スイッチを装備。
7,800円。
118(D)×74(W)×22(H)mm。
150g。
単3電池3本。












Photo courtecy Mr.Nishi


86

(Yellow)
(Orange)
(White)








OMRON 87

1975年に発売された8桁電卓。
プラスチックを成型したファッショナブルなデザインでオレンジ、ホワイト、イエローの3色が発売された。

単三電池2本使用。
79(W)×134(D)×23.5(H)mm。180g。
7,800円。


ET11

OMRON 86 のドイツブラウン社へのOEM。
Lubs/Rams の作品ではない。


GENIUS 50 (GENERAL ELECTRIC) (OMRON 86)

OMRON 86 のオーストラリアGENERAL ELECTRIC 社へのOEM。
%キー、ルートキーにメモリー機能がついている。


















86M

86にメモリー機能が付いたもの。



87S

デザインは86と同じ。
頭の部分に3本の線が刻まれている。
写真のように数字は右から並ぶ。
日本製。


606

デザインは86と同じだが6桁表示。
日本製。


Photo courtesy : Mr.William Smith UK
シンガポール製。

88 (Type 1)

手に持ったとき滑り落ちないようイチョウの葉の形をした8桁電卓。
色は、オレンジ、ホワイト、イエロー、ブラックの4色がある。
プラスチックの特性を生かしたカラフルで洒落たデザインの電卓で今でも人気があるオムロンの電卓の代表的機種。
1975年頃発売されたが、その後改良が加えられ、いくつかのバリエーションがある。

これは一番最初のタイプで、数字がディスプレイの左から表示される。

単三電池二本で使用時間は18時間(マンガン電池、アルカリ電池なら27時間)。ACアダプタ使用可能。80(W)×145(D)×23.5(H)mm。180g。5,500円。


88 (Type 2)

これもTYPE 88であるが、数字は右側から表示される。
また前面の表示が 「OMRON 8」 ではなく、「OMRON 88」となっている。



Carry V4 (CITIZEN)

88のシチズン紗へのOEMバージョン。
ただ88は筐体の色が白、黒、黄、オレンジの4色であり、赤はない。
数字は左から並ぶ。
単3電池2本またはACアダプター使用。

シチズン電卓

88R

TYPE 88 にルートキーが付いたもの。
TYPE 88 の+/- キーがルートキーに変更されている。
+/- キーはON/OFFスイッチの右側に配置された。。
数字は右から並ぶ。
前面の表示は「OMRON 8」 となっており、非常に紛らわしい。



左が88R、右が88 

89M



12F

12桁の関数電卓。画面のように変わった記号があり、複雑なプログラム計算に対応していると考えられる。CPUはMOSTEK製。"MK50075N ASSB MALAYSIA 7605EE"と記されている。他にToshiba製のチップも使われるなど複雑な内部構造となっている。シリアルナンバーは551898Eであり、1980年に製造されたと考えられる。単3電池3本またはACアダプター使用。81(W)×161(D)×38(H)mm。ボディは茶色。





88S

8ケタのポケットサイズ電卓。
シチズンにCitizen Carry V5 という名前でOEM供給された。


88SR

15,800円。


89DM

全体が金属製のケース、ボタンも金属製の洒落たデザイン。単4電池2本またはACアダプター使用。

140SR


8 mini (820)

4,500円。


Mini (821)


小型蛍光管電卓


8 mini (831)

単3電池2本で駆動。

OMRON 840

√、%、+/-キー付き。
5,400円。




8M (841M2)

メモリー機能のついたタイプ。単3電池2本またはACアダプター使用。
シンプルな内部構造
日立製のCPU


8S (850SD)

日本製。

127M

12桁電卓。
裏には金属製のカバーが付いており、カバーを上にスライドすることで電池の入れ替えをする。単3電池4本またはACアダプター使用。
シチズン、ドイツAdler社などにOEM供給された。


12m (Citizen)
81C (Adler)


電卓の要求仕様

西 志郎 

 また、電卓が壊れてしまった。 実にケシカラン。 数年しか使っていないのに、いくつかの押しボタンが反応しないのだ。 修理するという代物ではないから、後継機種を探さなくてはならぬ。

 計算尺のお世話になったことがある技術屋の最後の世代としては、関数電卓が二千円も出さないで買える、だからすぐ壊れる、などというのはとんでもない話で、「一万円出すから、残りの人生、叩き続けても壊れない、クリック感のシッカリしたキーと、グリーンに輝く蛍光表示管のついたのはないのか?」 と、当り散らしたくなる。 そうそう、どうせ我儘なら、デザインが卓越していることも大切なポイント。 言ってもせんないことであれば、毎回マニュアルを読み直すのはもう勘弁だから、いっそ同じ機械をまとめて 5台買ってしまおうかと思う。 そうすれば、機械は使い捨てにしても、使いこなすスキルの方は捨てずに済むから ・・・。

 私が初めて買った関数電卓は OMRON 8SR という機種で 1976年当時 7,800円であった。 (自社製品だったので、競合のシャープやカシオと仕様を比べることもせずに買ったのだろう。) どんな電卓でも欠くことのできない押しボタンに、僅か 3つの機能ボタンを加えただけで、三角関数、指数、対数、ラジアン/デグリー、何でもござれ、という設計思想が、加減乗除計算との使用頻度のバランスを考えれば、実にスマート。 そこが気に入っていたし、更には頭の良い設計者が考えついたのに違いない 「自動定数計算」 という機能を、私は便利に使いこなしていた。

 その頃、何がキッカケだったか思い出せないが、自動車メーカーに就職した親友の Y君と電卓の話になったことがある。 彼が 「オムロンの電卓は良いね。」 と言うのだ。 他所の事業部であれ、自社製品を誉められれば無論嬉しい。 どうしてなのかを訊くと、他でもない自動定数機能が、オムロンとシャープの電卓にしかついていないのだとのこと。 そうか、それはそんなにユニークな機能だったのかと、ビックリして、その後暫く友人知人に自社製品を押し売りして廻ったものだった。

 脇道にそれるが、話の見えない読者諸氏に解説をしておこう。 「自動定数計算」 というのは、電卓で 100 + 15 = 115 の計算をしたとき、「15 を加える」 という演算が 「= キー」 に自動記憶され、その状態から 200 = と叩くだけで 215 の答が出る。 たくさんの数に同じ数を足すような計算では、間違いが少ない上、能率が全然違う。 それだけでなく、実生活の場では 100 + 15 + 15 = 130 のように、同じ数を何回も加える、という計算が結構ある。 100 + (15 × 2) = 130 のように、掛け算を使うのが算数としては正しいけれど、カッコつきの計算など、電卓では面倒くさくてやっていられない。 そんなとき、自動定数機能のついた電卓なら 100 + 15 == 130 と、たちどころに答が出てしまう。 さて自動定数機能は、足し算だけの話ではない。 加減乗除の四則演算全てにそれが可能でなければ、却って間違いの元。 100 − 15 == 70、 100 × 2 === 800、 100 ÷ 2 == 25。 これら全ての計算に期待通りの答が出なければ、「自動定数機能」 とは呼べないのだ。 (手許の電卓で試して、一喜一憂している読者の顔が眼に浮かぶ。 フフフ ・・・。)

 さて、話は本題に戻る。

 それ以来、何台か使って来た電卓は、全て関数電卓である。 (技術屋にとっては、長船長光の刀、みたいなものだ。) 自動定数機能付きを探すに決まっている。 が、これがなんと、ない。 OMRON は電卓の価格戦争からとっくに撤退しており、他のメーカーはそれがどれだけ実用性の高い機能なのか、判っていない、あるいは認めたくないらしい。

 懐かしい初代の OMRON 8SR は、取扱説明書と共に手許に保存してある。 無論、ちゃんと動く。 取扱説明書の 「自動定数計算」 の項を読み直して、もう一度ビックリしてしまった。 100 + 15 == 130 という 「= キー」 を複数回連続して叩く、という技法の記述が全くないのだ。 いわゆる 「裏ワザ」 だったということなのだろうか? 単に 「マニュアルの執筆者が、設計者のセンスの良さを伝え切れなかった。」 だけだとしたら、それも悲しい結末ではある。

 結局、普段遣いの関数電卓は、どのメーカーを買えば良いのかな?
(西氏から投稿いただきました 2008.7.2. )