太陽電池式電卓

 太陽電池はトランジスタ研究の副産物としてトランジスタ発明の7年後(1954年)、米ベル研究所のG・L・ピアソンらによって発明された。

 世界で最初に太陽電池を搭載した電卓は1976年12月にシャープが発売したポケット型ソーラー電卓 EL-8026 であるといわれている。しかし、当時はまだソーラー素子がの開発が始まったばかりで高価だったことから、電卓の価格も2万4800円と高価で、製品としてはあまり成功しなかった。

(なお、日経産業新聞(1976年10月23日)によれば、米国のロイヤルタイプライター社が太陽電池を使った電卓を10月に発表したとの記事がある。これを抜粋すると、「電池交換が不用というポケット電卓が米国の代表的な複合企業リットン・インダストリーズ系列の事務機メーカー、ロイヤルタイプライターから発表された。太陽電池を内蔵、日光あるいは室内の電灯の光線で自然に充電するというもので、同社では電卓を使用している間も充電が行われるので連続使用が可能であるとしている。」。ロイヤル社は Solar 1 という電卓を発売しており、これがその電卓にあたるのかもしれない。ただ記事では「発表」となっており、同年の12月に発売されたEL-8026 とどちらが最初の電卓かは不明である。)

 その後、新聞記事によると、1978年末に東和サン機電はソーラー電卓を開発し、翌年欧米市場で「ソーラーパワー」を売り出し、国内ではテック電子を通じ"TEC"ブランドで「ソーラー電卓V001」販売をしたとのことであり、これも価格が7000円と高価だったため売れ行きはそれほどでもなかったとのことである。
(当博物館は、TEAL社のPHOTON Vという電卓を所蔵しているが、この電卓の説明書には「世界で最初の太陽電池式電卓」と書かれている。またこの電卓は別の資料では東和サン機電社の TOWA V-001と説明されていることから、このPHOTON Vが1978年に発売されたものと考えられる。ただドイツのAdler 社においては日本製のSoler Mini という電卓を発売しているが、これはPHOTON Vを縦型にしたような形状をしている。このあたりについてはさらに調査が必要である。)

 1980年に入ると、省エネブームの中でソーラー素子の開発が進み、性能、価格面で電池式の電卓と対抗できるものが発売されるようになった。
 1980年2月にはシャープはEL-825を開発し欧米諸国で販売した。しかしEL-825は国内では販売されなかった。シャープが国内販売を再開したのは1980年8月に入ってからで、EL-826(4,500円)と EL-316(4,700円)が発売されている。
 また、東和サン機電は1980年3月にシリコン単結晶のソーラーセルを使った電卓「V007」を発表し、5月からテック電子を通じて販売を開始した。


 またアモルファスシリコンの太陽電池は1976年米国RCA社のD・Eカールソンのグループはをつくることに成功した。

世界で最初にアモルファス太陽電池の実用化を実現したのは三洋電機である。三洋電機の桑野幸徳は一枚の絶縁基板上に複数の太陽電池を一体化してつくり付け、リード線なしで直列につなぐという「集積型」のアイデアにより1979年に世界で最初にアモルファス太陽電池の実用化を達成した。同社は1980年9月に世界で最初のアモルファスシリコン太陽電池内臓の電卓CX-1 をアモルトンの名前をつけて発売した。

 キヤノン、カシオも1981年からアモルファス太陽電池式電卓を発売している。
1954年アメリカのベル研究所のG・L・ピアソンらが世界初の太陽電池(単結晶シリコン)の発明を発表。
1955日本電気が太陽電池の試作品を作る。
1958東北電力 信夫山無線中継所に太陽電池(70W)が設置される。(日本初の太陽光発電システム)
1959シャープが太陽電池の研究開発を始める。
1963シャープが太陽電池(単結晶シリコン)の量産を始める。
1974通産省の「新エネルギー技術研究開発計画」(通称「サンシャイン計画」)が始まる。
1974三菱電機が宇宙通信用の太陽電池事業に着手
1975京セラが太陽電池の研究開発に着手。
1976シャープが世界で始めて単結晶シリコン太陽電池付きの電卓を発売。
1977アメリカRCA社のD・Eカールソンらがアモルファスシリコンで太陽電池を開発。
1977三洋電機が集積型アモルファスシリコン太陽電池を開発。
1979三洋電機が世界で初めてアモルファスシリコン太陽電池の実用化に成功。
1980三洋電機が世界で最初のアモルファス太陽電池内蔵の電卓を発売。

出所)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「なぜ、日本が太陽光発電で世界一になれたのか」



EL-8026

1976年に発売された世界で最初の太陽電池式電卓。
この電卓の場合、太陽光が直接電卓の駆動に使われるのではなく、いったん充電池(ボタン電池)に蓄積されるようになっており、暗いところでも使用できる。受光部は電卓の裏側についているが、これも充電池を搭載しているため可能となった。
サイズ 66(W)×109(D)×9.5(H)mm。 65g。
当時の価格2万4800円。

2010年シャープの太陽電池の技術が世界最大の技術者団体「電気電子学会(IEEE)から、社会や産業に貢献した歴史的な業績をたたえる「マイルストーン」に認定された。受賞の対象は1959年から83年の太陽電池事業。
シャープは1959年から太陽電池の開発を始め、63年にいち早く量産化に成功するなど、商業化と産業化に貢献したことが評価された。創業者の早川徳次氏は「太陽の熱や光を有効利用できないか」と着目。灯台や人工衛星に搭載され、過酷な環境で実績を積み重ねた。EL-8026はシャープの太陽電池開発の中で1976年に生まれた世界で最初の太陽電池付き電卓である。

<シャープの太陽電池の商業化および産業化の歴史 1959年〜1983年>
1959年 太陽電池の研究開発に着手
1963年 単結晶太陽電池の量産化に成功
1966年 長崎県尾上島の灯台に当時世界最大225Wの太陽電池モジュールを設置
1967年 宇宙用太陽電池の開発に着手
1976年 実用衛星「うめ」へ搭載
1976年 世界で最初の太陽電池付き電卓EL-8026を発売
1983年 アモルファス太陽電池の開発に着手

※IEEE(アイ・トリプル・イー) : 米国に本部を置く世界最大の電気電子技術学会。マイルストーンは歴史的な偉業をたたえる表彰制度で、日本では、東海道新完成や富士山頂レーダーなど14件が受賞した。シャープは2005年の電卓に続き、日本企業初の2件目の受賞。



EC-201 (TEC) (東和サン機電 TOWA V-001)

1979年にテック電子より発売された世界で最初の充電池を搭載しない太陽電池式電卓。("THE WORLD'S FIRST PURE SOLAR POWERD ELECTRONIC CALCULATOR")
製造は東和サン機電で型番はTOWA V-001。国内はテック電子を通じEC-201として、海外はTEAL社を通じてPHOTON Vとして発売した。
価格が7000円と高価だったことからそれほど売れなかったようである。

初期の太陽電池のため、現在の太陽電池式電卓と比べ受光部が非常に大きくなっている。

(注 この電卓については、情報がはっきりしない点が多い。
東和サン機電(現在の東和メックス)のホームページには V-007 の記述はあるが、V-001 の記述はない。
世界で最初の太陽電池式電卓を開発したとするとなぜこのことをホームページに書いていないか謎である。
この件について現在の東和メックス株式会社に問い合わせたが返事をいただけなかったうえ非常に冷たい対応を受けた。もうすこし一般の人からの問い合わせにも丁寧に対応してほしいものである。)

EC-205S (TEC)

EC-201の後継機。
液晶がグレータイプに変更されている。
日本製。



PHOTON V (TEAL)

1979年に東京電子応用研究所(TEAL)社より発売された世界で最初の充電池を搭載しない太陽電池式電卓。
東和サン機電 EC-201 とSolar パネルが異なっている以外は同じものである。

東京電子応用研究所(TEAL)社と東和サン機電の関係は不明。

ティール (東京電子応用研究所 TEAL) 電卓


EL-825 (Sharp)

1980年2月に欧米でのみ発売された電卓。国内では発売されなかった。
外側は皮の感じのビニール製。
国内で販売されなかったためかシャープの製品カタログにはこの機種についての記述がない。
ソーラーパネル自体はPHOTONVのそれと同じものである。
米国アイオワ州で使われていたもの。日本製。


SOLAR-MINI (IMPERIAL)

Imperial はLitton Industries の電卓部門。
SOLAR-MINI は日本製。

V-007 (東和サン機電(現在東和メックス) Towa Sankiden)

1980年5月に発売された太陽電池式電卓。
現在の東和メックス。あまり聞いたことのないメーカーであるが、ホームページによると、主にレジスターを販売しており、1980年に V-007 を開発したとある。ホームページには会社の理念などが書いてあるが、正直言って顧客対応は非常に悪い会社である(対応した社員の質かもしれないが)。
V-007は初期の太陽電池を使っているため受光部が非常に大きい。







SOLAR 8 (C.ITOH : 伊藤忠商事)

初期の太陽電池式電卓。
東和サン機電のOEM電卓。
(V-007 と太陽電池パネルの位置は違うがその他は同じ。)

伊藤忠商事 (C.ITOH)

PHOTON (TEAL)

初期の太陽電池式電卓。
発売時期は未定だが、V-007と同じ1980年頃に発売されたものとみられる。
名前からしてPHOTON Vの前身のような感じがするが、液晶の大きさからしてPHOTON Vの方が先に発売されたのかもしれない。
太陽電池式のためオンオフスイッチは付いていない。
黄色液晶。日本製。

EL-826

1980年8月発売の初期の手帳型型ソーラー電卓。
4,500円。




CX-1 (amorton) (Sanyo)

1980年に発売された世界で最初のアモルトン内蔵太陽電池式電卓。
キーは金属製。

(1980/05/14, 日本経済新聞 朝刊)
三洋電機は、非晶質のアモルファスシリコン太陽電池を初めて実用化した寿命約10年のポケット型電卓「アモルトンCX―1」を9月から発売する。アモルファスシリコンは現在各種の半導体に使われている単結晶シリコンに比べ、大幅なコストダウンが図れるところから活発な開発競争が繰り広げられており、昨年初めアモルファス太陽電池を開発した三洋電機が世界に先駆けて実用化に踏み切ったもの。



CX-2520 (amorton) (Sanyo)

ソーラーセルの大きさなどからみてCX-1とほぼ同時期に発売されたものと思われる。
ただキーは金属製からプラスチック製に変わっている。


CX-4 (amorton) (Sanyo)

同じく三洋の初期の太陽電池式電卓。






SL-801

1981年9月に発売されたカシオで最初のソーラー電卓。

 昭和五十六年初めのこと。三洋電機の中央研究所に籍を置く桑野幸徳氏(現在同研究所次長)は単身カシオ計算機に乗り込み、電卓開発の担当者に向かってこう切り出した。桑野氏は三洋電機社内で「アモルファス(非晶質)太陽電池の生みの親」と呼ばれる技術者だ。桑野氏が中心になって三洋電機は太陽電池付き電卓を開発し、五十五年に商品化したが、シェア(市場占有率)が低いこともあって、あまり関心を呼ばなかった。
 そこで桑野氏は電卓メーカー最大手のカシオに直談判に行き、太陽電池付き電卓の必要性を熱心に説いたのだ。カシオが太陽電池付き電卓を発売したのは五十六年九月で、以後この電卓の普及ぶりはめざましい。
(1984/07/13, 日経産業新聞より)

SL-701

1981年11月に発売されたカシオで最初のカード型ソーラー電卓。
3,900円。


JE-361 (Matsushita)

松下の初期の太陽電池式電卓。
太陽を象ったデザインがレトロである。

Datamax (Chiyoda sangyo)

千代田産業というところが発売した競馬、競輪電卓。
発売年は不明だが、ソーラーパネルはかなり大きいことから太陽電池式の初期のモデルとみられる。

LC-847 (Toshiba)

東芝の初期の太陽電池式電卓。
(写真のカバーは他の電卓のもの。)

LC-821
1977年発売 6,800円。



HB-103 (Toshiba)

東芝の初期の太陽電池式電卓。







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