Hewlett-Packard calculator

 HPはテキサスインスツルメントと同様電卓戦争に勝ち残った米国の数少ないメーカーの一つ。同社の電卓はRPN電卓が多く、キータッチなども独特で、マニアから非常に愛されている。
 HPの電卓は、当初は米国国内で生産されたが、その後シンガポールやブラジルで生産されるようになった。製造国はシリアル番号で判断できる。すなわち、SINGAPORE製はシリアル番号の5桁目が'S'で、INDONESIA製はシリアル番号が'ID'の2文字から始まる。またアメリカ製は5桁目が'A'でブラジル製は'B'となる。

HPの電卓には [ = ] (イコール・キー)が付いていない。これはHPの電卓がコンピュータの分野で広く使用されている「逆ポーランド法」が採用されているためである。この方式の演算は、四則や各種関数などの演算命令が数字の後に入力され、関数と四則の混合計算が効率よく行うことができる。
耐久性の面でも、一般の電卓のプリント基板がベーク板なのに対し、HPの電卓ではガラス繊維入りエポキシ樹脂板を使用しており、プリント配線及び接点には金メッキがほどこしており、衝撃に強く、長期にわたって使用できる。さらにキーボードの裏面にはポリエチレンシートが敷きつめられており、キーのすき間からほこりや湿気が進入するのを防いでいる。また、キーの上面の数字・記号は金太郎アメのようにキー全体を貫通しているため、キー上面が磨り減っても文字がかすれたり見えなくなるということはない。非常によくできた電卓であり、人気があるのもうなずける。

逆ポーランド法(RPN法)とは

逆ポーランド法(RPN法)は、コンピュータの分野で広く使用されている演算方式で、関数計算と四則演算を統一した方式で効率よく計算できるところに特徴がある。
逆ポーランド法による計算方式は日本語による計算と全く同じといわれる。以下例をもとに説明する。


  (2+3)×(4+5)
-----------------
[{(6-7)×(8-9)}×11]

という分数計算についてみると、

日本語では、「2に3を加え、4に5を加えて乗じ、6から7を引き、8から9を引いて乗じ11を掛けて割る。」
というが、逆ポーランド法で計算する場合は、日本語の説明と同じくキー入力していくことになる。
すなわち、
2 [ENTER] 3 [+] 4 [ENTER] 5[+] [×] 6 [ENTER] 7[-] 8 [ENTER] 9 [-] [×] 11 [×] [÷]
である。
この場合のキー操作は全部で22回必要となる。しかし、もしこれを一般のカッコつきの計算で行うと32回のキー操作が必要になる。
逆ポーランド法はプログラムステップの大幅な節約を実現できる優れた計算方法である。


9100A

1970年に日本で販売されたパーソナルコンピュータ。
関数キーを持っているので、数表は一切使わず、従来の計算機では不可能だった三角関数、双曲線関数、対数などを含む複雑な科学技術計算もワンタッチ操作で解答が得られる。
また、プログラムのステップが196あり、ほとんどの計算式をプログラムできた。またプログラムを名刺大の磁気カードに記録・保管しておけば、いつでも、誰でも計算ができる。
非常に高機能にもかかわらず、大きさはタイプライター程度に収まっている。
当時としては世界最高の計算機だった。
発売時の価格は 1,694,000円だったが、半年後には 1,520,000円まで価格が引き下げられた。

日本経済新聞 1970.8.15.






Photo courtesy : Mr.T.Yoshida

HP 46

YHP 46 (HP 46)

HP 35

1972年に発売されたヒューレット・パッカード社最初のポケット電卓。
世界で最初のポケットサイズ関数電卓でもある。
キーが35個あることからこの名前となった。
同社の共同創業者である William Hewletto はこの製品のサイズを決めるにあたり、自分の胸ポケットに入ることという条件をつけた。彼が長身で大きめのシャツを着ていたことはHP-35の設計者にとって幸運であった(ペギー・キドウェル他「デジタル計算の道具史」ジャストシステム)。
基本的な四則演算(加減乗除)しかできなかった当時のほかの電卓とは違って、計算尺でできるすべての関数演算などが可能だった。HP-35の登場で、計算尺は廃れていったいわれている。
 HP-35の発売当時の価格は395ドルと高額だったが、予想を上回る需要があり、最初の1年で10万台以上売れたという。

82(W)×145(D)×25(H)mm。



2009年4月、HP-35はIEEE(電気電子技術者学会)から電気電子技術分野の歴史的偉業として「IEEEマイルストーン」に認定された。
同認定は歴史的・社会的に大きな価値を持ち、かつ25年以上に亘って評価に耐えていることを条件として行われるものであり、'83年の制定以来、世界初のコンピュータであるENIACをはじめ、ボルタ電池やフレミングの二極管など65件が認定されている。

電卓については、この他、2005年12月シャープの電卓、CS-10A、CS-16A、QT-8D、EL-805が認定されている。

同認定は歴史的・社会的に大きな価値を持ち、かつ25年以上に亘って評価に耐えていることを条件として行われるものであり、'83年の制定以来、世界初のコンピュータであるENIACをはじめ、ボルタ電池やフレミングの二極管など65件が認定されている。

 「HP-35はいつでもどこでも、ほぼ瞬時に正確な科学演算ができるようにしたことで、技術変化のペースを速め、エンジニアリングに革命を起こすのに貢献した」と高く評価されている。


Type 1Type 2

Photo courtesy : Mr.T.Yoshida

憧れの 「HP‐35」

憧れのヒューレット・パッカードの関数電卓 「HP‐35」 が手に入って
しまった。 赤い LED 表示のオリジナル。 動くのは勿論、マニュアル、
元箱、全て揃った、正に 「博物館クラス」 のお宝。

骨董機械のコレクションが増え続け、進化の歴史が見え隠れするように
なると、歴史を語る上で欠かせない逸品が欲しくなる。 私はコレクターと
は少し違うし、近頃流行のネット・オークションも食わず嫌いでやらないけ
れど、欲しいなぁ、と公言だけは多方面にしてあった。

(西氏から投稿いただきました → 続きを読む)




Photo courtesy Mr.Nishi




Photo courtesy : Mr.T.Yoshida

HP45

1974年に発売されたHP35、HP80に続くHP社3代目の製品。
当時の価格は$395。








Courtesy of Mr.Joerg Woerner

HP65

1974年に発売された。世界で最初のプログラム可能なポケット電卓といわれている。プログラムを保存するためのカードリーダーを備えていた。世界で最初のコンピュータであるMITS-Altairより一年前に発売されたにもかかわらず性能的にははるかに進んだ機能を持っていた。
当時の価格は$795と、プリント機能のついていないポケット電卓の中で最も高価なものの一つである。



HP 67

1976年発売された。当時の価格は$450。
38C






HP 41CV

 41CVは、41Cに若干の改良を加えたもので、1981年発売された。記憶容量が大きくタイマーも内蔵している。液晶ディスプレイは数字だけでなくアルファベットも表示できる。
 また、41CVは1982年から85年までスペースシャトルに搭載されたことでも有名。シャトル内で軌道計算、実験データの処理、目覚まし時計などに使われた。実際に搭載されたものはNASAからワシントンの国立航空宇宙博物館に寄贈され、展示されている。


HP 41C


1983年6月スペースシャトル「チャレンジャー」に搭載された HP41CV。



HP21

1975年に発売された20シリーズ最初の電卓。
HP35より一回り小さい。
$125。



HP 19B2

33E






Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP10B

HP10Bはビジネス電卓の中では最廉価版に位置するモデルである。計算方法はRPN方式ではなく、一般の入力方式を採用している。
米国では日本と異なりサラリーマンは自ら税金の計算をしなければならないことからHP10BやHP12Cのような金融計算ができる電卓が数多く出回っている。HP10Bではローン計算などを行なう機能が内蔵されており、利子の計算などが簡単に行なえる。また、ルートやべき乗計算、Logや指数計算、階乗計算機能も付いており一般の計算も行なえるが、一般入力方式による乗除算優先機能が無いため使いにくい。
HP電卓独特のキータッチを楽しみたい人にとっては、最も安く手に入れることができる電卓である。



HP10Bは、中身(機能)はまったく同じものの、製造時期によりいくつかのバリエーションが存在する。バリエーションの数は不明だが、確認されているものとしては3種類ある。すなわち、製造時期の早い時期からSINGAPORE版 -> INDONESIA版(標準カラー版) -> INDONESIA版(Greenタイプ)である。

標準カラーのバージョンは、筐体のプラスティックの色が茶色で関数名の文字色がオレンジ色だが、後から発売されたものは筐体のプラスティックの色が黒色で文字色が緑色である(Greenタイプ)。また文字のフォントや製品のパッケージの仕方も異なっている (写真 参照)。





3種類のバリエーション。左からINDONESIA版(標準カラー版)、
SINGAPORE版、INDONESIA版(Greenタイプ)。


Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP10BU

HP10BIIは、新生HPから発売されたHP10Bのモデルチェンジ版である。
モデルチェンジと言っても、キーの配置やLCDの表示は異なる。とくにHP10BIIについては、CLEAR(表示クリア)の'C'のキーが新たに設けられ、左下のONキーは電源のON/OFFにしか使用しなくなった。
筐体のサイズは、使用しやすさの観点から横幅が若干増え、薄くなった。また筐体の左右には、HP33Sと同様、滑りどめのゴムが付いた。
機能的な違いは不明だが、HP10Bと比べ計算速度が若干速くなったようである。
使用電池はSR44 3個からCR2032 2個に変更されている。
中国製(新生HP電卓のすべて中国で生産されていると思われる)。





Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP17B

HP17Bは、関数電卓のHP32SIIと同じデザインで、HP10Bの上位モデルにあたる。
ただ、入力方式はRPN方式から一般の入力方式に変更されるとともにLCDはドットマトリクスタイプの2行表示に変更された。LCDの下の行にはメニューが表示され、キーボードの一番上の6つのキーをこのメニューに対応させている。モードによりダイナミックにキー機能を割り当てることでシフトキーの機能を減らし、操作性の向上とすっきりとしたキーまわりを実現した。
また、HP17Bは時計機能を内蔵し、アラームの設定ができたことから、PDAのなかった時代にPDA的な使い方もされた。
生産国は製造時期により異なるが、写真は初期の米国製である。

              *          *          *          *

HP17Bの後にHP17BIIが発売された。一番の違いは、HP17BIIはRPN機能が内蔵され、RPNと一般計算方式(ALG)を切り替えて使うことが可能になった点である。
その後新生HPからHP17BII+が発売された。HP17BII+は同じく新生HPから発売されたHP10Bのモデルチェンジ版HP10BIIと同じデザインの筐体を使用している。





Photo courtesy : Mr.Y.Tsuji

HP19C







Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP20S (インドネシア製)

HP20Sはインドネシアとブラジルで作られている。
両者を詳細に比べると、キーの印刷が若干異なっているほか、裏側のゴム足や付属のケースデザインに違いがみられる。

HP20Sのパッケージ

Courtesy of Mr.Ken Takahashi





Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP20S (ブラジル製)







Courtesy of Mr.Taro Tsubomura

HP32S

HPの50th Anniversary Limited Editionなるもの.






Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP32SU

HP32SUのパッケージ

Courtesy of Mr.Ken Takahashi





Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP33S

HP33Sのパッケージ

Courtesy of Mr.Ken Takahashi




Courtesy of Mr.Ken Takahashi

HP38G

HP38Gは図形描画機能を実装したグラフィック電卓である。
筐体のサイズはHP48Gシリーズとほぼ同じで、内部の作りは同じものと考えられるが、入力方法ではRPN方式を採用しているHP48Gシリーズと異なり一般の入力方法を採用している。
HP38Gのパッケージ

Courtesy of Mr.Ken Takahashi

赤外線通信機能やPCとの接続が可能。可動するハードケース(ふた)がついており、取り外すことはできない。

Quick Calc

コンパクトでスタイリッシュな水平タイプの電卓。
裏面に磁石が付いているので、よく使うところに貼り付けておいて気軽に使うことができる。
色は、「シルバーグレイ」の他に、「シャルトリューズグリーン」「パールピンク」「チョコレートブラウン」の計4色となっている。
サイズ  H43×W118×D13.5mm。
ディスプレイ  8桁×1行。
電源 LR1130(LR54、GP189)×1個。
1,050円。


Yokogawa-Hewlett・Packard calculator

横河・ヒューレット・パッカード株式会社(YHP)は、横河電機(YEW)とヒューレット・パッカード(HP)により1963年設立された合併会社。1968年から医療用電子測定器、1969年からは電卓、コンピュータなどのデータプロダクト機器、1971年からは化学分析機器を取り扱っていた。同社の電卓はヒューレット・パッカード社製であるが、そのうち一部についてはYOKOGAWA-HEWLETT・PACKARDのロゴが付いていた。


パンフレット



Courtesy of Mr.Ken Takahashi

YHP 97

モデル5


ヨーパル81

YHP 21

科学技術計算用プログラム電卓。1975年発売された。充電式。シンガポール製。






YOKOGAWA-HEWLETT・PACKARD 27
YOKOGAWA-HEWLETT・PACKARDのロゴ


YHP 25C

科学技術計算用プログラム電卓。1976年発売された。充電式。ヒューレット・パッカード25と同じだがスイッチを切ってもデータを保持するContinuous memory機能が付いている。シンガポール製。



YOKOGAWA-HEWLETT・PACKARDのロゴ 操作ハンドブックと
アプリケーションブック

YHP 45

科学技術計算用プログラム電卓。充電式。1973年発売された35、80に続く第3のモデル。裏には日本語の操作ガイドがついている。シンガポール製。

YOKOGAWA-HEWLETT・PACKARDのロゴ、ラベル



Courtesy of Mr.Ken Takahashi

YHP 65





YHP 67






各種パンフレット

Courtesy of Mr.Ken Takahashi
モデル10
モデル20




本ページの作成に当たっては高橋健氏から多くの写真や貴重な情報を提供していただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。


「逆ポーランド記法」 とは?

「逆ポーランド記法 (Reverse Polish Notation)」 とは、ヒューレット・パ
ッカード社の関数電卓独特の一風変わった演算記法である。 単純な原
理の説明だけだと、なぜそういう反主流派が (一時) 持てはやされたの
かがピンと来ないだろうし、それ以前に、先入固定概念が理解の邪魔をす
ること請合い。 そこで少しばかり回り道にお付き合いを願いたい。
電卓が登場する以前、お店屋さんでは、足し算と引き算だけできる機械
式の 「加算機」 (別名 「キャッシュ・レジスター」) を使っていた。

(西氏から投稿いただきました → 続きを読む)


「逆ポーランド記法」 プログラミングの妙

話が長くなるのは年寄りの癖なので、前稿から分離したけれど、「逆ポー
ランド記法」 は、科学技術発達史の一分野を形成する 「コンピュータ・
プログラミング」 の観点からも、なかなか興味深いものがある。

電卓設計者の視点に立つと、「逆ポーランド」 は 4つの 「スタック (演
算用メモリーレジスター)」 を使いながら、それを表には見せず、少ない
基本ルールだけで自在に使いこなせるのである。

(西氏から投稿いただきました → 続きを読む)








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