Casio Mini (Casio)
カシオ・ミニは1972年8月カシオ計算機から発売された低価格ポケット電卓である。
60年代に電子式卓上計算機(電卓)が発売されたあと、急速な技術革新により、電卓の価格は急激に下がったが、72年当時でも3万円程度と、オフィスで使うにはともかく個人が簡単に買える商品ではなかった(当時最も安かったのはクラウンラジオが生産し、ダイエーから発売されたBUBU 100Xで1万9,800円だった)。こうした電卓に対するイメージを根底から変えたのが、カシオ・ミニである。当初の価格は1万2800円、当時の市場価格の3分の1という常識破りの低価格であった。

このように価格を下げることができたのは、
@電卓の心臓部であるLSIを安い値段で生産できるよう設計しなおした(この結果、1個3,000円だったのが1,500円まで低下した)。また操作キーも新方式に代え生産費を10分の1に引き下げたこと。
A月産10万台と他電機メーカのトランジスタラジオ並の量産規模にしたこと(輸出は生産量の半分を予定していたが、発売前の段階で既に米国から10万台の受注があった)
による。

カシオミニの発売を知ったライバル各社には激震が走った。カシオ・ミニの発売により電卓市場では価格低下が一層進み、利益率が低くなる中、廃業や電卓部門からの撤収を余儀なくされる企業が続出した。しかし、パーソナルユースをコンセプトに開発されたカシオ・ミニは狙いどおり全国の家庭へ普及した。出荷台数は発売後約10か月で100万台に達した。その後3年の間に生産コストを大幅に下げ、4800円という価格を実現した。これにより個人需要はさらに高まり販売台数600万台という驚異的な記録を残した。
以上からカシオ・ミニは個人を対象とした最初の「大衆電卓」に位置づけられる。。















電卓価格の推移
発売年機種価格
1964 Sharp
CS-10A
535,000 円
1966 Busicom
161
298,000円
(ビジコンショック)
1969 Sharp
QT-8D
99,800 円
1971 Busicom
LE-120A
89,800 円
1971 Omron
800
49,800 円
(オムロンショック)
1971Victor Tallymate40,000-50,000 円
1972 Sharp
EL-801
39,000 円
1972Casio Mini 12,800 円
(カシオミニショック)
カシオミニシリーズ
発売年月機種価格CPU
72/08Mini\12,800日立 HD32127P
73/02Mini CM-601\12,800
73/05Mini CM-602\12,800
73/10Mini CM-603\12,800
74/02Mini CM-604\ 8,900
74/04Mini CM-605\ 8,900
74/11Personal-Mini CM-606\ 5,800
75/05Personal-Mini CM-607\ 4,800

カシオミニのOEM版
販売元機種Price カシオミニ
との対応
CPU
UnisonicMINI
Mini
Remington661
Mini日立 HD32127P
Sperry Remington661D

日立 HD32154P
Sperry Remington663


Sperry Remington667

NEC μPD178C
HitachiKK260B



Casio Mini の生産風景

当時販促に配られたうちわ: 裏には園山俊二の絵がついている。
uchiwa



Mini

1972年8月に発売された最初のミニ。
12,800円という低価格で、電卓を個人で使うものとした「大衆電卓」の走りともいうべき電卓。
内部をみるとセパレート型の表示管(単管)を使っていることがわかる。

Sperry Remington Rand 社やUnisonic 社へOEM供給された。





カシオミニとそのOEM版


Mini CM-601

Mini 発売の半年後、1973年2月に発売された。
初代Mini より若干長くかつスリム。
表示管は丸型多桁管(丸管)に代わった。



Mini CM-602

Mini CM-601 と同型。 キーが四角になり小数点キーがついた。
小数点は、整数のみ(小数点は扱わない)か、小数点を扱うか(このときは小数点以下2ケタまで)の切換えスイッチがついている。

乾電池4本使用。37mm(H)-153mm(W)-81mm(D), 340g(乾電池を含む)。12,800円。




Mini CM-603

Mini CM-602 と同型だが小数点方式が完全不動小数点方式になった。
乾電池4本使用。ACアダプターは別売(2000円)。37mm(H)-153mm(W)-81mm(D), 340g(乾電池を含む)。12,800円。






Mini CM-604

ボディがなめらかな形状となった。
ミニで初めて1万円を切る。

日立へOEM供給された。

KK260B





Mini CM-605








Mini CM-606



Mini CM-607 (Personal-Mini)

独特の青緑(?)色の電卓。 スリムで小型化が図られている。4,800円。






その他の Casio Mini

カシオミニシリーズはMini、Mini CM-601から Mini CM-607 からなるが、その他にも様々な機能を持ったものが販売された。

Root-8







Memory 8R



Mini Memory




Mini ROOT

MINI ROOT・M




Deluxe Memry

自動的に合計が求められる電子メモリー機能、割増し、割引き完全パーセント計算機能が付いた。

156(W)×82(D)×33(H)mm。
256g。
12,800円



(参考) AS-A

デスクトップながらカシオミニと同じ横型タイプ。カシオミニの原型ともいえる。
もともとこのAS-Aは、そろばんの形に似ており当時電子ソロバンと呼ばれた。カシオミニがヒットしたのは、人々がソロバンのように気軽に使える電卓を求めていたという背景があり、こうした形状が人々に親しみを感じさせたと考えられる。

Casio AS-A







Casio Mini のOEM 版

カシオミニは他社へも相手先ブランドで数多く製造された。
面白いことに、これらは全て縦型であり、カシオミニを土台としていることが判断しづらいが、内部をみると全く同じ構造であることがわかる。

MINI (Unisonic)

カシオミニのユニソニック社向けOEM電卓。
カシオミニは横型だが、ユニソニック ミニの方は横型。

MINI

カシオミニとそのOEM版


661 (Sperry Remington Rand)

Sperry Remington Rand 社はBurroughs 社と Remington 社をルーツに持つ米国の企業。
電卓の販売でカシオと提携し、数多くのカシオミニを同社ブランドで販売した。

661D (Sperry Remington Rand)

661Dは661と同様、Sperry Remington Rand社から661とほとんど同じ時期に発売された電卓である。しかし外見からもわかるように両者のデザインはかなり異なっている。CPUは661とカシオミニが日立製HD32127Pなのに対し、661Dは日立製HD32154Pというチップを使用しており、小数点以下の桁数をゼロ桁か2桁にあらかじめ設定することができるようになっている。ディスプレイはいずれも単管を使用している。


663 (Sperry Remington Rand)

CM-604のSperry Remington Rand 社へのOEM版。
日立のKK260B と同じタイプ。




667 (Sperry Remington)

CPU は、NEC μPD178C


KK260B (Hitachi)

日立製6桁ポケット電卓。
「0」の表示をみてもわかる通り、カシオのOEMマシン。
内部の構造をみると、Sperry Remington 663 と同じタイプ、CM-604を縦型にしたものであることがわかる。
カシオミニの出現により、日立は電卓の自主生産をあきらめ、カシオからのOEMに切り替えたことがうかがえる。
チップは日立製 "HD32170P"。


KK260B

KK260BとCM-604







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