最初の液晶電卓 (First LCD calculator)

 液晶は1888年欧州で最初に発見された。液晶は消費電力が少ないことから、電卓の数字表示管としての利用が検討された。
 世界で最初に液晶を電卓に搭載したのはビジコン社である。同社は東京化成工業と共同で世界で初めて液晶表示装置の実用化に成功し、1970年8月にこの液晶表示装置を搭載した電卓の試作機を発表した。さらに1971年1月にはこの表示装置を組み込んだポケット電卓「ビジコンハンディLC」を発表した。発表では「ビジコンハンディLC」と合わせ表示装置にLEDを使った「ビジコンハンディLE」公開されたが、当時の液晶の安定性が十分でなかったことから「ビジコンハンディLC」は実際には販売されず、「ビジコンハンディLE」が世界で最初のポケット電卓「ビジコンハンディLE-120A」として発売された。
 世界で最初の液晶電卓は1972年米国で発売された。この年米国Lloyd's 社から Accumatic 100、 Sears 社から C1という液晶電卓がが発売された。これらはいずれも Rockwell 社がメキシコでアセンブルしたものであった。ただこれらの電卓は、従来の蛍光管式電卓のディスプレイ部が液晶に置き代えられただけのものであった。電卓の大きさも弁当箱ほどあり、かつ電卓を可動させるためには、Accumatic 100 は単1電池4本若しくはACアダプターを必要とし、 C1 についてはバッテリー駆動ができないなど液晶電卓としてのメリットはほとんど生かされていなかった。さらに液晶ディスプレイの生産が難しい上、安定性に問題があったこともあり、しばらくして製造が取りやめられ、市場から姿を消した。
 こうした中、液晶電卓の時代を切り開いたのがシャープである。シャープは小型で長時間使用可能な電卓の開発に取り組んでいたが、そのためには表示装置の消費電力を大幅に減らす必要があると考え液晶を自ら開発した。また、シャープはこれとあわせ電力消費量の大きい演算部などについても徹底した省電力化を図り、1枚の強化ガラス板上に、演算部、表示部、駆動部、キー接点などを一体化したCOS(Calculator -on-Substrate)化を図ることで乾電池の消耗を従来の 187分の1 にすることに成功した。この結果、単三乾電池一本で100時間使用することを実現した。こうした電卓全体の省電力化を図ることで液晶の電卓への活用のメリットが生まれ、その後の液晶電卓の大きな流れが作り出された。その意味でシャープが世界で最初に液晶電卓を製造したといってもいいのではなかろうか。シャープはこのCOS-LCD 技術の開発をきっかけとしてその後液晶の分野をリードしていくこととなる。
 ただ当時シャープが実用化した液晶はDMS型(動的錯乱型)であったが、電力の消費量の面からは立石電気が開発したFEM型(電界効果型)の方が優れていた。立石電機はFEM型の開発に力を入れ1974年6月にFEM型の電卓 オムロン80LS を発売した。また表示機器メーカーの信州精器においてもFEM型の研究を東京電子応用、東芝が支持し、1976年には東芝からFEM型の電卓が発売された。FEM 型はDMS型に比べ駆動電圧が低く、消費電力が少なく、コストが安かったことからシャープもその後FEM型に転換した。



主な液晶電卓
機種
タイプ
1973
6
EL-805 (シャープ)
DMS型
1974
6
EL-809 (シャープ)
DMS型
1975
4
EL-8010 (シャープ)
DMS型
1975
6
EL-8009 (シャープ)
DMS型
1975
8
CL-811 (カシオ)
FEM型
1975
12
RC-8LC (リコー)
FEM型
1975
12
CX-8028 (三洋)
FEM型
1976
3
EL-8020 (シャープ)
TN-FEM型
1976
5
パーソナル1 (カシオ)
1976
7
M800 (カシオ)
FEM型
1976
9
891M (オムロン)
FEM型
1976
12
EL-8026 (シャープ)
FEM型
1976
LC-81
FEM型



Busicom 141-DA

1970年8月に発表された世界で最初の液晶電卓(試作機)。
ビジコン社が同社の電卓ビジコン141−DAに東京化成工業が開発した液晶ディスプレイを搭載したもの。
液晶表示管の消費電力は蛍光表示管の約3%以下にすることに成功した。
1971年前半にはこの表示装置を組み込んだポケット型電子式計算機を発売すると発表した。


Photo courtecy : Busicom Corp

ビジコンハンディLC

1971年1月に発表された世界で最初のポケット型液晶電卓。
ビジコン社はこの電卓を9万円前後で8月に発売するとしたが、当時の液晶の安定性が十分でなかったことから、実際には販売されなかった。





Photo courtecy : Mr.T.Yoshida

Accumatic 100 (Lloyd's)

1972年発売された世界で最初の液晶電卓。
ロックウェル社製の液晶を搭載。液晶を使いながら単一電池4本が必要で、かつ本体が大きかったことから当時主流だったLED電卓に対抗することができず、まもなく市場から消え去った。



Photo courtecy : Mr.T.Yoshida

Accumatic 70 (Lloyd's)







Photo courtecy : Mr.T.Yoshida

C1 (Sears)

Sears 社は米国のデパートチェーン。同社はBowmer社、Rockwell社、APF社などの製品を販売した。しかし、Montgomery Ward 社やRadio Shack 社と違い、ほとんどの製品は本体のデザインなどについて同社向けに設計したり、既存の製品を再設計したりした。

C1はLloyds Accumatic 100 と同様、ロックウェル社製の液晶を搭載した世界で最初の液晶電卓の一つ。ただAccumatic 100と異なり電池駆動はできなかった。外観は似ているもののディスプレイ部にはフリップトップは付いてない。
本体はプラスチック製で、上半分が青、下半分が白となっている。派手ではないが、当時の流行のレトロな雰囲気が漂うスペース時代を代表する洒落たデザインの電卓である。





C1 のマニュアル
C1 の操作法の他、C1 が1チップマシンであること及び当時最先端の技術である液晶を使用していることが書かれている。





Accumatic 40 (Lloyd's)

1974年 Lloyd's 社が販売した電池駆動のポケットサイズの液晶電卓。頭の部分にプリズムがあり、外部からの光はプリズムによって曲げられ画像を見やすくするようになっている。
同じものとして Data King 社からData King 800も発売されている。
これらはいずれも Rockwell 社がメキシコでアセンブルしたものである。




EL-805 (Sharp)

1973年6月に発売されたシャープ液晶コンペット「EL-805」。世界初のCOS-LCD電卓。
発売価格は26,800円とライバルのカシオ・ミニ(12,800円)より高かったものの、単三一本で100時間も連続使用できたことから価格が高いにもかかわらずヒットした。
この電卓をきっかけに電卓の表示機能は蛍光管から液晶に代わった。
20(H)×78m(W)×118(D)mm。 210g(乾電池を含む)。

EL-805



集計機能付きカウンタ